■報告書の主なポイント(概要)
第T章 電子政府の現状と課題
- e-Japan戦略ならびに電子政府構築計画等の一連の施策の結果、わが国のIT基盤は飛躍的に整備され、国の申請・届出のオンライン化も96%まで進捗した。反面、電子申請・届出の利用率は依然低迷しており、今後の大きな政策課題になっている。
- 一般市民に対し電子政府に関するアンケート調査を実施したところ約21,000人から回答があり、「利用したことがある」もしくは「機会があれば使いたい」との回答が過半数を占めた。さらに、どういった電子政府サービスに期待するかとの質問を行ったところ、回答数約1000人のうち96%が「電子申請・届出」をあげている。この理由は「窓口に出向かなくて済む」ならびに「好きな時間に手続きができる」が大半を占め、現状の行政サービスを補うものとしての期待が高いことが判明した。
- 以上のことから、申請・届出のオンライン化に対する期待が高いにもかかわらず使われていない実態が判明したが、海外の成功事例の調査を行った結果を踏まえて、そのポイントとして以下の3点を仮説として提起し、次章以降で具体的な検討を行うことで、使える電子申請のあり方を検討した。
・認証方法の柔軟な運用 ・民間活用の促進 ・利用者へのインセンティブの充実
第U章 企業における従業員関係手続きのオンライン化推進
- 電子申請・届出の最大のヘビーユーザは企業である。なかでも、従業員に関わる行政関連手続きは、税金関係・社会保険関係・労働保険関係とさまざまあり、提出先も国の関係機関や自治体など多様である。こうした手続きは、窓口ごとに書式も異なり、社内の情報システムから連動しておらず、いったん出力した上で仕分けや郵送等の紙ベースの多くの事務を余儀なくされている。
- 2007年の団塊世代の一斉退職を目前に控え、退職者手続きの増大が予想されるが、団塊世代付近の5年間(47年〜51年生まれ)の就業者は820万人、常勤雇用者で580万人になる。ECOM会員に対する調査の結果、一人当たりの平均退職手続き時間は2時間35分要していることから、人件費ベースで749億円の負担が発生するとの結果が判明した。
- 一方、退職者本人も年金を得るための「老齢給付裁定請求」手続きなどで、自治体やハローワーク、税務署など多くの行政窓口から必要書類を入手し、社会保険事務所に提出する作業が、予想以上に多くの負担になっていることが判明した。特に、退職後にこの手続きを行う場合、相談する相手もいないことから、手続き完了までかなりの労力と時間を要している。
- 企業の従業員関係手続きを行っている担当者と、団塊世代付近の会社員に対するアンケート調査を実施したところ、それぞれ1050社、410名から回答を得た。その結果、以下のような回答を得た。
- 雇用者に係わる行政事務手続について約半数の企業が負担を感じている。とりわけ、給与支払報告書の届出や年末調整など給与支払関係の手続については約60%の企業が負担を感じている。また、雇用保険関係の手続についても約半数の企業が負担を感じている。
- 300人以上の規模の企業においては80%以上が、団塊の世代の退職期における手続の負担増を懸念している。
- 80%の企業がこれらの手続をインターネット化する事で便利になると感じており、90%近くが実際にインターネット化を進めるべきだと考えている。また、80%の企業が、団塊の世代の退職者が集中する2007年までにインターネット化の実現を望んでいる。
- 老齢給付裁定請求手続が在職中に出来ることに対して、実際に経験している、いないかに係わらず、約90%の人が便利になると考えている。
- これをインターネットで一括処理できるようにするべきだと考えている人は94%に上る。なかでも、58%の人が「税金を投入してでも積極的に進めるべき」と回答している。さらに、それを2007年までに実現するべきだと考えている人も92%に上る。
- さらに、企業が特に負担を感じている給与支払報告書の届出や年末調整の負担度合いについて、追加調査を行ったところ、従業員一人当たりそれぞれ2.26時間、2.86時間という結果が判明した。これを従業員50人以上で資本金3000万円以上の企業で合算すると、年間2000億円もの経費が2つの手続きに費やされていることになる(常勤雇用者全体で計算すると、1兆1700億円もの負担になる)。
- 以上のことから、従業員関係の行政関連手続きは企業ならびに従業員に大きな負担になっていることが明確になった。これらコストの軽減は、企業の収益性を拡大することに直結するとともに、電子申請・届出の利用拡大の鍵を握るキラーアプリでもある。そこで、ECOMでは企業を核としたワンストップ化の提言を行い、そのためには民間サービスノウハウの積極的な取り込みと、電子申請・届出の受付に必要なデータ形式等の仕様を公開すべきと結論付けた。
第V章 電子税務申告の普及策
- 昨年度のECOMにて電子税務申告の普及に向けた検討を行ったが、今年度は申請者と仲介者である税理士へのヒアリングを重点的に行った。特に、税理士とのディスカッションの結果、現状の電子税務申告には「署名に関わる課題」「添付書類に関わる課題」「申告の控えに関わる課題」の3つの課題が抽出された。
- 「署名に関わる課題」は、PKIを用いた公的個人認証による署名が義務付けられているが、このための準備やコスト負担が普及を妨げる要因とも考えられる。特に、税理士等の仲介者を介した申請の場合、電子署名がかなり煩雑になる。そもそも、成りすましなどの懸念が少ない税務申告で電子署名を附すことの意味は事後否認防止に狙いがあり、これは課税庁当局の事情に他ならず、納税者に義務付ける上での必然性に説得力が希薄である。
- 「添付書類に関わる課題」は、添付書類を後送することで電子化の意味が希薄になることと、申告データと添付書類が分割して提出されることによってか税調側の負担も増大していると考えられる。
- 「申告の控えに関わる課題」は、対面による申告の場合は受領印を押した申告内容の控えが納税者に渡されるが、電子申請では同様の書類が手元に残らない。それによって、金融機関で融資を受ける際や、更正申告や税務調査においても申告内容の確認ができないことなどの影響が懸念される。
- こうした課題に対して、納税者側のニーズを把握するために、企業の税務担当者を対象にアンケート調査を行い、1050社から回答を得た。その結果、以下のような回答があった。
- 税務申告で税理士や会計士などの仲介業者に依頼している割合は約70%で、従業員の少ない企業ほどその割合が高い。
- 税務申告を行う上で負担と感じている点としては、「申告書の作成が複雑で面倒」「申告内容の正確な把握」「証憑書類の整理と提出」の3点が上位を占めた。
- 電子税務申告に対する関心度は「内容を知っている」との回答が23%にとどまっている。
- 申告の控えの多くは金融機関から求められており、約半数の企業が年一回以上使っていることが判明した。民間取引においてかなり一般的に用いられていることになる。
- 227件の自由意見が出されたが、項目をカテゴリー別に分類すると、税務手続きに関する意見が全体の60%を占めており、そのなかでも手続きの上流工程である「税務相談」に関する意見が最も多かった。
- これら一連の調査を踏まえた結果、電子税務申告を普及させるための鍵は、仲介業者の活用にあるとの結論に至った。
すなわち、税務申告の準備段階である税務相談から申告、税務調査、納付までのサイクルを包括的にサポートする税務コーディネートサービスの役割が重要であると考えた。
- 税務コーディネートサービスは、納税者の経営や財務状況に関する個別情報を的確に把握し、税務申告についての適正な助言・指導、代理申告および申告内容の検証にいたる一連のサービスを包括的に行う。
さらに、申告内容を審査し保証することで、課税庁が行う課税事務の一部を支援し、課税庁の業務を軽減させる「課税庁指定サービス」を考慮することで、課税庁の審査をアウトソーシングする効果も期待できる。
- 税務コーディネートサービス事業者が、利用者サービスと課税庁指定サービスを併せ持つことで、申告者認証手段の改変や、申告内容の事前チェックによる添付書類の省略など、電子税務申告普及の阻害と考えられる要因の除去にもつながる。
第W章 企業が活用できる電子政府実現へのシナリオ
- 電子政府をサービス事業としてとらえると、利用者価値を高める一方で利用者コストを低減することで、相対的に利用者の受益メリットを高める必要がある。個々に分析すると、現状の電子政府サービスは利用者コストを超える利用者価値を創出できておらず、普及促進のためにはこれら3つの視点に立った検討と対策を講じていく必要がある。
さらに、こうした検討を行うにあたっては、行政と利用者の間に位置する普及促進主体が必要である。
- 具体的なシナリオとして、以下の実現ステップを提言する。
・ 第1ステップ:シナリオを実行する民間主導の実行組織づくり ・ 第2ステップ:新電子行政サービス創出に向けたフィージビリティ・スタディ ・ 第3ステップ:電子行政サービス・ビジネスの企画と事業化 ・ 第4ステップ:サービス・ビジネス化を支援する電子行政サービスの構築
- 電子政府の大きな目的は、行政や企業を含めた社会的コストの低減にある。現行の行政サービスでボトムネックとなっている点に着目し、これらボトムネックを解消することで利用者コストを低減できる明確なシナリオを、行政と民間双方で築くことで、電子政府の可及的な定着が図れ、導入効果を享受することができると考える。
本年度の検討を通じ、電子申請の普及という課題はいわば2次的なもので、本質的には、行政関連手続きに伴う負荷をいかに軽減するかという論点で検討する必要があることが判明しました。 そのためには、民間企業における行政関係手続きを洗い出し、ボトムネックを解消するための最適な仕組み作りが求められます。
最適な仕組み作りのために、ECOMでの研究成果を踏まえそれを具体的に推進していくために、行政書士や税理士を含めた組織をNPO法人「東アジア国際ビジネス支援センター(EABUS)」内に立ち上げ、『企業における行政関連手続きの省力化のためのひな型を設計し、行政が提供する電子申請を効率的に活用できる仕組みを研究し提案する』ための実証的な検討に着手する計画で準備を進めています。 次年度ECOM電子政府・ビジネス連携WGでは、こうした実証的な検討を実施するNPO法人と連携し、「活用できる電子政府実現へのシナリオ」実現に向けての具体的なモデルの提起を目指した活動を計画しています。
ECOMセミナーで招聘したカナダケベック州歳入省の責任者は、講演で次のような発言を行いました。 「行政手続きは国民の義務であるので、多少不便であっても国民は従う。しかし、電子的に行う手続きには義務はない。それゆえに利便性の追求とマーケティング努力は必須である」 これは、今後の電子申請を普及促進し、定着させる上で重要な指摘であると思います。元来、電子政府は社会的コストを軽減し、国民生活の生産性向上を図るために計画され、構築されたものです。この原点を見直し、わが国の経済・社会的基盤の強化に結びついてこそ、電子政府が社会に根付いたことになると考えます。 |